この国のかたち〈4〉 (文春文庫)



この国のかたち〈4〉 (文春文庫)
この国のかたち〈4〉 (文春文庫)

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昭和の戦争に対する司馬の見方を明確に示していて興味深い

第四巻は92年から93年の2年間に書かれたもの。当時69歳から70歳である。

特筆すべきは、統帥権に関するまとまった論文と、
「日本人の二十世紀」と題した口述筆記である。
いずれも、昭和の戦争に対する司馬の見方を明確に示していて興味深い。

昭和の戦争は、

 ・ただ石油ほしさにアジア各国に進出した
 ・確かに戦った相手は植民地の宗主国だし、アジア諸国への領土的野心もなかった
 ・が、戦場となった国の民には甚大な被害を及ぼした侵略戦争であった
 ・植民地解放は目的ではなく結果であり、正当化する理由にも贖罪にもならない

と総括していて明快である。
司馬はついに昭和の戦争については小説を書かなかった。
その理由の一端がうかがえて興味深い論文である。
統帥権に対する認識の甘さ

4巻は久しぶりに統帥権についてページを大きく割いています。
軍部による統帥権干犯を強く批判する司馬ですが、すでに幕末・明治初期あたりから統帥権を軽んじる風潮があったとの指摘は、ちょっと歴史観が変わった気がしました。
昭和軍部の暴走は日露戦争の成功(というよりも成功と勘違いしたこと)に端を発していると思っていましたが、背景にはもっともっと根深い日本人のメンタリティがあるということがよくわかります。
また、朝鮮半島で520年も続いた李氏朝鮮が中国と日本をどのように見ていたかのくだり(「李朝と明治維新」)は、日本にとって朝鮮半島が、朝鮮半島にとって日本が、地政学的にいかに重要で密接な関係にあるかということがよく理解できました。
この国とはどこの国なのだろう?

司馬遼太郎が昭和戦後の大作家であることはここで述べるまでもない、竜馬がゆく・世に棲む日々を代表とする明治維新を題材にした小説群は今後も青春文学の金字塔として読み継がれていゆくことだろう、国盗り物語にはじまる戦国時代小説群もサラリーマンの処世訓教養小説として同様に愛され続けるだろう、

大小説家にして街道をゆくを代表とするエッセイ群により大エッセイストであることも論をまたない、では大評論家なのか?と問えば疑問符が大きくなる、司馬を歴史家と呼称してはアカデミズムに失礼だろうとおもう、

本作シリーズは晩年の代表作、特に本書に収録された統帥権に関する文は最晩年に及んで司馬はようやく行きついた終着点のような結論を述べた作品、

自分の勤務する会社を「この会社」と呼んでは普通は愛社精神に欠ける人物と判断されるだろう、勤務する企業は自分自身を含めた組織なのだから、司馬が「この国」というとき司馬自身はまるで日本に含まれていないように思うのは評者ひとりではあるまいと考える、

晩年になればなるほど司馬は昭和前期の日本と当時の軍人たちへの怨嗟を執拗に繰り返した、過剰に執拗だったと評してもいいだろう、残された文章から浮かぶのは軍人には不適格すぎるほどだった司馬自身の兵役時代に対する恨み辛みである、軍人としての自身の不適格性を正当化するための戦争と軍部批判が最晩年に到達したのが統帥権だったというのはあながち的外れではないだろう、終戦時、おろかな国に生まれたものだ、と思ったと司馬自身が書いている、自分の暮す国を「おろかな国」と思うのであれば「この国」という呼称も仕方ないことであろう、反面教師として老人になって自身の青年期のトラウマなどにこだわりたくないと思わせる、

本書の最後に日本人の二十世紀という長文があり実に簡潔明瞭に司馬の思考方法が語られていて貴重、自身でリアリズムが大事と述べながら日露戦以降の歴史のリアリズムが理解できていないことが良く分かる、「大正のある時期に日本は専守防衛の国で戦争はできない、となぜいえなかったのか」という発言にいたっては司馬がいわゆる空想的平和主義者と同じ地平の人物であることがよくわかる、



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